ヒトラーの最後を描いた映画
アドルフ・ヒトラー最後の10日間(1973)HITLER: THE LAST TEN DAYS
「アドルフ・ヒトラー最後の10日間」は1973年の製作。本作は「イギリス・イタリア合作」とのことで、ヒトラー最後の誕生日から自殺までの10日間を描く佳作です。オープニングテーマにワーグナーのローエングリン3幕への前奏曲を使い、格調高いA級指向の仕上がりを目指しているものの、製作にイタリアが絡んでいるせいか、はたまたどこから見てもイタリア人にしか見えないアドルフォ・チェリがクレプス将軍を演じているせいか、どことなくB級色が漂っています(笑)。また、パーティや少年兵への激励といったエピソードが、ことごとく地下壕の狭い空間で行われるため、スケール感に乏しく舞台劇のような印象を受けます。ヒトラーを演じるのは、「戦場にかける橋」でイギリス軍のニコルソン大佐を演じた、名優アレック・ギネス。最初に観た時は、「そっくりやん!」と思ったものの、良く見ると、ちょっと太めで彫りが浅いような感じが(笑)。とはいえ、何かに憑かれたような、鬼気迫る演技は必見です。
ヒトラー最期の日(1981)THE BUNKER
「ヒトラー最期の日」は1981年の製作。物語は1945年1月、連合軍が迫りつつある中、ヒトラーが総統官邸地下壕に入ってから自殺するまでを描く力作です。原作はジェームズ・オドネルの「The Bunker(地下壕)」。本作は「フランス・アメリカ合作」のテレビ映画のようですが、劇映画以上のクォリティを誇っております。特筆すべきは、本作でも地下壕における一連のエピソードが描かれる中、ナチ党の高官の中では特にシュペーアに焦点があてられており、シュペーアによる「最後のヒトラー暗殺計画」にも触れられております。また総統官邸の中庭で少年兵を激励する場面や、過去の回想でベルヒテスガーデンでヒトラーとエヴァが戯れる場面の再現具合にも目を見張るものがあります。またセットも「アドルフ・ヒトラー 最後の10日間」とは異なり、地下壕はもちろん総統官邸の正面玄関なども良い雰囲気で再現されております。一方、ここまで考証に拘っているにも関わらず、事実関係に疑問な部分もあります。本作では、フェーゲラインが逮捕され、一旦はヒトラーが釈放を命じるものの、ヒムラーの和平工作を知ると一転してフェーゲラインの処刑を命令し、フェーゲラインは地下壕内で絞首刑に処せられます。あれっ絞首刑だったっけ?と思ったら、その後でゲーリングの後継引継ぎを求める電報が届いたりします。ゲーリングとヒムラーのエピソードは時系列が逆ですよね?ヒトラーを演じるのは、「遠すぎた橋」でフロスト中佐を演じたアンソニー・ホプキンス。ちょっとオーバーアクト気味か?と感じる部分はありますが、私としては「ヒトラーの最後」を描く映画の中では一番のお気に入りです。
デス・オブ・アドルフ・ヒトラー(1972)THE DEATH OF ADOLF HITLER
「デス・オブ・アドルフ・ヒトラー」は1973年の製作。時期的には「アドルフ・ヒトラー 最後の10日間」とほぼ同じようです。英LWT製作のテレビドラマですが、出来としては「アドルフ・ヒトラー 最後の10日間」や「ヒトラー最後の日」に比べると、かなり劣ると言わざるを得ません。作品自体がビデオ撮りで雰囲気に欠けるということもありますが、それ以上に内容的にリアリティが欠けます。例えば、ユダヤ人を殲滅するという「偉業」の命令が、文書として残されていないことにヒトラーが激怒し、自殺する間際に「1941年3月8日の命令を再口述する」など、ホンマかいな?と首を傾げるエピソードが多々あります。ヒトラーを演じるのはフランク・フィンレイ。既出の2作品と比べて、とにかく喚いております。これを果たして熱演というのかどうか…私は空回りしているように思うのですが。
ヒトラーの秘密(2005)UNCLE ADOLF
「ヒトラーの秘密」も2004年の製作のテレビ映画。おそらく「ヒトラー~最後の12日間~」に合わせて、即席で企画されたものと邪智します。ただ、そのままヒトラーの最後の日々を描いたところで、本家に叶うはずもなく、そこで「自殺した姪」に焦点をあてる構成にしたのかなと思われます。
ヒトラー ~最期の12日間~(2004)DER UNTERGANG
そして「ヒトラー~最後の12日間~」ですが、2004年製作の本作は、一連の作品の中で最も完成度が高い作品と言えるでしょう。公開当時は、ヒトラーを人間的に描いた!とかで、とかく批判的な論調も見受けられましたが、ブルーノ・ガンツ演じるヒトラーは素晴らしいの一言に尽きます。これまで幾多の俳優がヒトラーを演じてきましたが、最も「自然」なヒトラーなのではないかと感じました。時代考証なども、少なくとも浅学非才な小生が間違いを指摘出来る箇所などあろうはずもありません。おそらく、ヒトラーの最後を描く作品で、これを超える作品は出てこないものと思いますが、では何故この作品が一番のお気に入りではないかというと、まずは余計な場面が多いことです。あのブルース・ウィリス似の親衛隊軍医は余計だと思いますし、何よりもヒトラーが死んでからも延々と30分以上引っ張られます。挙句の果てに、秘書のユンゲが出てきて「しっかりと目を開いていれば真実に気付けたはずだ」と。つまり裏を返せば、「当時はユダヤ人の虐殺について何も気付かなかった、全然知らなかった」という、おそらくドイツの世間一般を代表する言い訳をのたまうことです。これら、余計な場面をカットして100分くらいにまとめると最高傑作の誕生になると思います(笑)。
ベルリン陥落(1949)PADENIE BERLINA
「ベルリン陥落」は1949年のソ連映画で、ドイツ軍のソ連侵攻からベルリン陥落までを描いており、後の「ヨーロッパの解放」の前身的な作品です。この映画はスターリン礼賛のプロパガンダ映画で、ソ連側の登場人物は冷静沈着に描かれているのに対して、ヒトラーを始めとするドイツ側の人物は、いちいち身振り手振りがオーバーで、道化役者のような描写となっております。またヒトラーの結婚式と、地下鉄に水を流し込むシーンを交互に見せるなど、非情を際立たせる演出も満点です(笑)。いろいろとプロパガンダ臭がプンプンする映画ですが、割り切ってみたらそれなりに楽しめますし、何よりも戦後間もなく、これだけのスケールの映画を作ったということが驚きですね。
ヨーロッパの解放・第5部ベルリン大攻防戦(1971)OSVOBODZHDENIE: BITVA ZA BERLIN
「ヨーロッパの解放・ベルリン大攻防戦」は、1972年製作の「ヨーロッパの解放」の第5部の作品。この映画でのヒトラーの最後は、他の作品を大きく趣を異にします。もとより、ヒトラーとエヴァが自室に入ってから自殺をするまでに、どのようなやりとりがあったのかは神のみぞ知ることですが、この映画では2人になった瞬間、ヒトラーがゾンビのようにエヴァに迫り、嫌がるエヴァの口に無理やり毒入りのカプセルを押し込むという描写がされております。しかも、ヒトラーは自ら自殺をするに至らず、侍従のリンゲが「介錯」をしたことになっております。まあこれがソ連の公式の歴史ということでしょうか(笑)
Der letzte Akt(1955)
戦後、西ドイツで最初期に製作された戦争映画の一つですが、日本では劇場未公開の作品。脚本に「西部線異状なし」のエーリヒ・マリア・レマルクが参加しておりますが、当時はヒトラー生存説もそれなりに説得力があった時期で、レマルクとしては「ヒトラーは確実に死んだ」ということを世に再認識させたいという思惑もあったようです。
物語は、連絡将校として派遣された一大尉の眼を通して、総統地下壕での出来事が描かれますが、ヒトラーの描写はソ連映画のごとく誇張されて描かれております。また秘書のトラウドル・ユンゲも出て来ない(本人が出さないように頼んだ模様)など、史実性という点では今一つの作品です。
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