バルジ大作戦(1965)BATTLE OF THE BULGE
戦車モノ映画の金字塔「バルジ大作戦」。おそらく今後もこれを越える戦車モノの作品は出てこないことでしょう。私の最も好きな戦争映画の一つです。
本作では何といってもロバート・ショウのヘスラー大佐がハマり役です。「007/ロシアより愛をこめて」でも、殺し屋として抜群の存在感を示していたショウですが、本作では完全に他の主演級の俳優をくっております。
そして本作の最大の見所は「ドイツ機甲師団」です。アルデンヌの森を、木をなぎ倒しながら進軍するドイツ機甲師団。く〜格好良い!ドイツ機甲師団をこれほどまでに魅力的に描いた作品は他にありませんね。本作品の真の主役です。
しかし、本作には昔から批判的な意見も散見されます。特に真っ先に槍玉に上がるのは、M47をそのまんまキングタイガーとして出したことでしょう。冒頭のキングタイガーの模型もM47そのものです。しかし、考えてみるまでもなく、実車のキングタイガーなど用意できるはずもありません。また改造するにしても、1台や2台であれば「戦略大作戦」のように、病的なまでに改造した戦車を用意することも出来るかもしれませんが、あれ程の数を用意するのは無理でしょう。
ですので、本作のM47に対する批判は、批判のための批判であると思っております。例えM47に十字ペイントを付けただけであっても、要はいかにそれを魅力的に撮るかでしょう。例えば「ヨーロッパの解放」では沢山の改造タイガーが出てきましたが、正直、私の中ではあまり印象に残っておりません。
あと本作は、いわゆるバルジの戦い全体を描いてはおらず、歴史的な正確性にも欠ける、という意見も聞きます。確かに本作は、アイゼンハワーやパットンといった実在の人物は出て来ません。また戦いの鍵となる天候の回復やドイツ軍の降伏勧告に対して「Nuts!(阿呆!)」の一言で回答した有名なエピソードも、軽く触れられている程度です。またマルメディ事件を親衛隊の計画的殺害として描くなど、かなりの脚色があります。
これは同時期にコロンビア映画でもバルジの戦いの企画があり、コロンビアとワーナーとの間で「バルジの戦い」の題名を巡る争いが起き、ワーナー側はアイゼンハワー、ブラッドリー、パットンなどの実在の人物名に言及しないということに合意した結果、ワーナー版は実在の人物が登場せずフィクション色が濃くなりました。それでもワーナー版はドイツ機甲師団に焦点をあてて描いた、その一点だけ捉えても個人的には充分すぎるほど満足出来る内容でした。
なおコロンビアの企画では、アイゼンハワーやパットン、そしてヒトラーなども出てくる内容だったらしいです。こちらはおそらく「史上最大の作戦」や「遠すぎた橋」のような群像劇だったと思われ、これはこれで見てみたかったと思います。
あと映画が進むに従い、冬のアルデンヌからかけ離れた光景が映し出される点も良く指摘されます。攻撃開始当初は雪も降っておりますが、中盤では地面に白いものがある程度、終盤の戦車戦ともなると冬らしさは皆無です。確かにこれは残念な点ですね。
しかし、それ以上に私が残念に思うのは、ピア・アンジェリとバーバラ・ウェールの二人の女性です。ハッキリ言って、出てくる必要性が感じられません。まあピア・アンジェリについては、亡くなることによってテリー・サバラスが敵愾心を持つという関連でまだ許せますが、高級娼婦役のバーバラ・ウェールは完全に余計だと個人的には思います。何でもシネラマの社長のお気に入りだったようで、社長の後押しで登場シーンが作られたのだとか。チョイ役なのにオープニングのクレジットもチャールズ・ブロンソンより先になっています。
そしてラストはガソリンタンクが転がってきて、へスラー大佐が「あぎゃーっ!」と絶叫する中で炎上・爆発する訳ですが、初めて見た時は「何?この終わり方は?」と釈然としませんでした。もっともへスラー大佐が絶叫するのは、井上孝雄のNET吹替版のみですが。
へスラー大佐脱出バージョンの存在
しかし、このバルジ大作戦のラストについては、いま見られるものとは別のバージョンがあるのではないか?と、昔から囁かれております。それは全く根拠の無い話ではなく、各種の本やパンフレットに、それを伺わせる写真が掲載されております。
こちらは、KKワールドフォトプレス刊の「戦争映画大カタログ」より。負傷したへスラー大佐をコンラッド伍長が抱える有名な?場面。
こちらも、KKワールドフォトプレス刊の「戦争映画大カタログ」より。おそらく、コンラッド伍長がへスラー大佐の下に駆けつける場面だと思われます。
こちらは雑誌に掲載されたものですが、戦車から脱出した後に、銃撃してくる米兵に反撃している場面と思われます。
同じような場面ですが、こちらはパンフレットに掲載された写真。
こちらもパンフレットに掲載された写真。戦車から脱出した直後の場面のようです。
ネット上を検索すると、この他にも同様の写真が出てきます。これだけ状況証拠があると、別バージョンがあるのではないか?と思うのも無理からぬことでしょう。
へスラー大佐脱出バージョン ─── 仮にそう呼称しますが、最初は脱出バージョンが撮影されたのではないかと夢想します。内容として手掛かりになるのは、コミカライズ版の「バルジ大作戦」です。
「バルジ大作戦」のコミカライズ版。劇場公開された約半年後の1966年6月にDell社から発行。
最後の場面は、米兵がガソリンタンクを放ち、タイガー戦車が火に包まれる所までは同じですが、へスラー大佐は脱出した後に、米兵に撃たれております。脱出バージョンでは、コンラッドが「撃たれたんですか」と駆け寄り、へスラー大佐が「伝えてくれ・・・へスラーは全力を尽くしたと・・・」とか言った後に絶命したものと思われます。
ただ脱出バージョンにおいては、規格帽を被ったコンラッドが駆け寄っていることから、おそらくコンラッドはへスラー大佐に随伴していて、戦車隊の後方の指揮車にでも居たものと思われます。つまり、へスラー大佐の言動に幻滅してコンラッドが補給部隊に転属になった場面も、脱出バージョンには無かったように考えられます。
以下は完全に私の妄想ですが、当初は脱出バージョンが撮影されたものの、あまりにも敵キャラを格好よく描きすぎている!とか誰かが物言いをつけ、「へスラー大佐の発言に幻滅するコンラッド」および「戦車から脱出せず、なおも突進しようとする」戦争キチガイ的描写に変更されたのでは?と邪知しております。個人的には、脱出バージョンを見てみたかったですね。
バルジ大作戦のオリジナル版は何分?
日本で最初に「バルジ大作戦」がVHSソフト化された時は141分と大幅にカットされたものでした。そのため、テレビ放送版にあったシーンがVHSソフトには無い、という逆転現象も起きました。その後、ロングバージョンなるVHSソフトも出ましたが、それでも156分で、テレビ放送版にあったシーンは欠落のままでした。そのため、ロングバージョンとテレビ放送版を自家編集して、個人的最長版ビデオを作ったりしておりました。その後、DVDが発売されて、ようやくテレビ放送版の場面が網羅されますが、いま発売されているDVDは169分です。
これに対し、allcinemaでは175分、IMDBでは167分となっています。少なくともDVDは169分ありますので、IMDBの167分は無視していいでしょう。175分については判断に迷いますが、公開当時の雑誌の記事でも175分と記載されているものがありますので、日本で公開された時には175分だった可能性も捨てきれません。となると、日本で公開された時よりも、現状でも5分位はカットされていることになります。さらにIMDBには「1965年にイギリスで劇場公開されたオリジナル版は、212分1秒だった」との記載もあります。もし現存するのであれば212分版を見てみたいですね。
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